【対象】
令和6年度版「新編 新しい算数」
以前は「確かでないことは教科書には載せない」との立場から、演算記号や分数の筆順など、明確な筆順が存在しないものについては教科書には載せておりませんでした。しかし、「児童に好きな筆順で書いてよいと指導すると、混乱が生じることもあるので、正式な筆順がないとしても、何らかの筆順を示して欲しい」との要望も多く、現在の教科書では、「+、-、×、÷」などの演算記号や等号、「%」の記号、分数などについても筆順を示すようにしています。また、わり算の筆算については、教科書ではなく、教師用指導書に筆順を掲載しています。
以下に、「演算記号や等号、パーセント記号」「分数」「わり算の筆算」について、教科書または指導書で示している筆順について説明します。
ただし、以下に示されている筆順は、あくまで筆順がわからないことによる児童の混乱を防ぐためのものであり、単なる一例にすぎません。必ずこの通りに書かねばならないというものでも、そのように指導しなくてはならないというものでもありません。
(1)演算記号(+、-、×、÷)や等号(=)、パーセント記号(%)について
これらの記号について明確な筆順は存在しないようです。また、これらの記号の由来(※例「%」)から、筆順を判断する手がかりが得られないかと考え、文献等を調べましたが、やはり確たる根拠は見当たりませんでした。
そこで、筆順を掲載するにあたり、私どもでは「一般的によく行われる筆順であること」と「小学生にとって書きやすく、自然に受け入れやすい筆順であること」の2点を考慮し、現在掲載している筆順を採用いたしました。
※註「%記号の由来」
「per cent」という言葉は15世紀にヨーロッパの商業の中心であったイタリアで多く用いられるようになり、当初は「p cent」 などと表記されていました。その後、「p」が省略され、「cent」が「Cの真上に小さい・を付した記号」に変わるなど徐々に変化を続けた結果、最終的に現在の「%」になったとのことです。
もともとイタリアではprimo(第1)、secundo(第2)・・・などの代わりに、1や2などの数字の真上に小さい・を付した記号で表す習慣がありました。そのため「100について1」という共通単位を表す際に、cent(100)の頭文字をとって「Cの真上に小さい・を付した記号」が使われるようになったようです。
(参考文献)
「数字と数学記号の歴史:大矢真一、片野善一郎 著」(1978、裳書房)
「算数・数学授業を楽しくする数学史の話:上垣渉 著」(1990、明治図書)
(2)分数について
分数の筆順の掲載にあたり、私どもでは、「前後の数や記号などとのバランスを崩さずに書けること」に主眼を置き、下記[1]~[3]の3案について検討いたしました。

[1]の書き方は「b分のa」という分数の読みに対応したものであり、こちらの方がよいのではないか、とも考えました。しかし、分数表記に不慣れな段階で[1]や[2]の筆順で書くと、これまでの数や式の表現の経験から、下のように前後の数や記号と同じ高さに、同じ大きさで分母や分子を書いてしまう恐れがあります。

これらの表記は、前後の数や記号とのバランスが悪く読みづらいことに加え、「(2+3)が分母なのか」、「(2+2)が分子なのか」といった混乱を生じさせることにもつながります。
以上のことから、中の線を最初に書く[3]の筆順であれば、[1]や[2]と比べて前後の数や記号などとのバランスを考えやすく、かつ誤解も生じにくいと考え、[3]の筆順を示すことにしました。
(3)わり算の筆算について
わり算の筆算については、「筆順に関して児童が戸惑うことが少ない」という意見が多く、現在弊社の教科書には筆順は載せていません。しかし、「指導上の工夫として児童に対する目安が欲しい」という要望もありますので、指導書では下記の筆順を紹介しています。

これは、わり算を声に出して読んだときの順番に対応させようという指導が背景にあります。つまり、上記の筆算を声に出して読むと「72わる3は」となりますが、72と3の間の「)」を「わる」に、72の上の「 ルートの上部」を「は」に対応させることで、式を読む順番通りに筆算が書けるように、との配慮からです。
なお、他に、

という筆順も紹介しています。
繰り返しになりますが、上記に紹介いたしました筆順のいずれも、正式なルールではありませんので、学級や児童の実態に応じて柔軟な取り扱いをすることが肝要かと考えます。